朝が苦手な院生ブログ

基礎こそ物の上手なれ. 人間万事塞翁が馬. を大切にしている経済学徒.

臓器移植のドナーを増やす有名な研究 Opt-in VS. Opt-out とは!?

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どうもこんにちは。
最近毎朝お腹が痛い限界大学院生です。
 
 
近年、行動科学や行動経済学といった人の「行動」に注目した研究やビジネスが盛んに行われています。
昨年(2017年)のノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学リチャード・セイラー(Richard Thaler)教授の影響もあり、かなり有名になっていると思います。
 
法律を変えずに、独裁者のように振舞わずに、魔法のように大衆の行動を変えることは極めて困難です。セイラー教授のNudgeの理論は研究者に限らず、多くの人が聞いたことがあるかも知れません。
 
行動経済学の発展と、多くの一般書の出版により、経済学に関心のある方のみならず、行動経済学の本を読んだことがある人はたくさんいると思います。現状維持バイアス保有効果などはそれらの本を読めば必ず紹介されている理論です。
 
この記事では、行動経済学の発展に大きく貢献していると言われる1つの研究について簡単に話したいと思います。
 

 

そもそも行動経済学とはなんぞや?

 
おそらく行動経済学について簡単に話す必要があると思います。簡単に言えば、ズバリ「経済学×心理学」です。この説明だけで十分であると思いますが、要約のプロWikipediaでは

経済学の数学モデルに心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法である行動経済学 - Wikipedia

と書かれています。経済学がよく分からない方は、従来の経済学が考えている合理的に対抗している学問分野であると思って下さい。
 
 

デフォルト設定を1つだけ変えてドナー登録者数を増やす

 
2003年に世界で最も権威のある学術誌の1つであるScience誌に掲載されたJohnson & Goldsteinによる論文"Do Defaults Save Lives?"では、ドナー登録をするかしないかは、全て人の選択が決めているのではなく、デフォルトの設定による影響もあるのではないか?といった観点について複数の先進国のデータを使った研究をしています。少し言い換えると、人の選好(好みや意識)は同じでも、質問の設定によっては結果を変えることがあるのではないかということです。
 
 
臓器提供の意思表示は、日本では「提供しない」がデフォルトであるため、私たちは何もアクションを起こさなければドナーとなることはありません。提供したい場合は、日本では日本臓器移植ネットワークから会員登録を手続きを済ましてドナーになる必要があります(関心がある方は見て下さい)。日本のような提供する(Opt-in)場合に意思表示をしなければいけない国提供意思を示している人の割合は10%前後しかありませんが、オーストリアやフランスなどの「提供する」がデフォルト設定となっている国々ではほぼ100%に近い水準になっています。つまり、ドナーから外れる(Opt-out)ために意思表示が必要な国における国では「提供しません」と手続きをする人はほぼいないのです。
 
 

どうしてこんなに差が生じるのか?

 
結果として、先に述べたようにデフォルトの設定が異なる国の間には大きな差があることがわかりました。
文化や歴史の違いから、日本人とヨーロッパ人の選好が異なることは容易に考えられますが、しかし文化的な違いの理由から臓器移植の点において「提供する」と「提供しない」の意思表示にこれほどの差があるとは考えにくいと考えるのが普通でしょう。
 
この結果に対する考えは

  • デフォルトオプションに対して反対の意思を示すのには労力が必要

  • スタンダードな選択(デフォルトの設定「提供する」)に残ることを好む

  • デフォルトで与えられている設定が普遍的な選択であると思い、意思変更を示す追加的なコストを拒む
     

ということが示されています。
 
 

まとめ

 
一般的に(または多くの人が)望ましいと思われることを「選択」することをデフォルト設定にしておくことが、どんな人たちに対してもある程度有効であり、多くの人の意思表示の結果を変えることができるといったことを示した研究になります。
 
心理学者が行ったこの研究は現在の行動経済学の研究とは分析手法などの面において異なりますが、人の心理や選好がこのようにデータや研究を通して見ることができ、それが現実の問題や状況を好転させる影響を持つことを知るのはとても面白いことだと思います。
人は全ての選択を自分の意識のみに従っているのではなく、様々な外的要因に影響されて選択をしていることがわかります。
 
私は行動経済学をまだまだ勉強中ですが、関心がある人は共に頑張りましょう( `ω´)
 
 
経済学に関心を持った人は以下の本を参考にしてみて下さい(
`ω´)
ちなみに、私は行動経済学に関しては論文とテキストThe Foundations of Behavioral Economic Analysisをちょいちょい読んでます。全1400ページと狂っている本ですが、ペーパーブックで5,936円とクッソ安いです。関心のあるところを読んでいくだけでも価値のあるテキストであると思います。

www.econ-stat-grad.com

www.econ-stat-grad.com

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参考文献: Do Defaults Save Lives? Science. available @ http://science.sciencemag.org/content/302/5649/1338/tab-figures-data